Laval Virtual 2023参加レポート

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オリィ研究所と当研究室(コミュニケーションロボティクス研究室)で取り組んだMeta Table βが世界トップクラスVRコンテンツを表彰するLaval Virtual Award 2023を受賞しましたLaval Virtualはフランスのラヴァルで開催される国際展示会、カンファレンスです。今年で25回目となるこのイベントはバーチャルリアリティ、メタバースの分野では世界最大の規模で、その賞はVR界のアカデミー賞と例えられています。今回は、Laval Virtual2023へ現地参加した様子をレポートします。(※こちらの内容に加筆したものです)

Laval Virtual について

Laval(ラヴァル)はパリから西に300km弱くらいに位置する歴史的な町並みが残る地方都市です。日本でいえば、岐阜や奈良に例えられます。街の風景はこんなかんじ。歩いてるだけで「ようこそ木組みの街へ」な気分になれます。

Lavalはフランスの政策に後押しされ、元研究担当大臣だった当時の市長の方針で1999年にVR研究都市となりました。以来、毎年春にヨーロッパ最大の国際VRイベントLaval Virtualを開催しています。Laval Virtualは世界最大規模のVR/XRイベントであり、見本市(展示会)カンファレンス授賞式(Award)ReVolutionコンペアート展示(RectoVRso)ハッカソンが開催されています。 SIGGRAPH等の他のイベントと同様にコロナ禍で規模が縮小しましたが、徐々に参加者を取り戻しつつあります。

 ※参考データ
 【COVID‑19以前】
   2019年:見本市5日間、来場者 20000人程度、出展企業 300社程度。
 【COVID‑19以降】
   2022年:見本市3日間、オンサイト来場者 6500人、出展企業 150社、VR Worldでの併催 。
   2023年:見本市5日間、来場者 9500人、出展企業 190社、オンサイトのみ開催 。

今年のLaval Virtualの詳細については、STYLY Magazineで特集されています。

出展

今回、出展したMeta Table βは分身ロボットを通した雰囲気共有をサポートするテーブルです。オリィ研究所との共同プロジェクトとして開発しました。Laval Virtual 公式の受賞動作品動画はこちら。OriHimeパイロットのいくちゃん @ikudori とマサさん@OriHime_masaがご出演です。

Laval Virtual 公式による受賞動作品動画

Laval Virtualにはコミュニケーションロボティクス研究室としては2018年度以来6度目(ただし2020年はコロナ禍でキャンセル)、オリラボさんとは昨年につづき2度目の参加になります(ただし、昨年はオンライン出展)。今回の出展は、コンペ部門のReVolution #Research 部門での選考を経ての採択出展です。それとは別にAward部門でもファイナリストとしてノミネートされました。なんと昨年に引き続きWノミネートです(昨年は、結果、両方選外でした)。

出展メンバー

出展メンバーは本学からは学部4年生になりたての酒井優成さん、石渡将聖さん、白井耀さん。今回の作品の開発チームでもあります。

プラス、ことのはさん@Kotobako_koto、ちふゆさん、さとこさん @satoko_orihime 、もえさん @moe_chai_ らOriHimeパイロットの皆さん。海外出展の際はOriHimeパイロットの皆さんが力を発揮してくれて、いつもお世話になってます。現地で人手が倍になるのでOriHime出展すばらしいです。

出展会場

会場はエスパスマイエンヌ。ここは建築としても有名だとか。長閑な街並みの中に突如この建物が現れます。フランスは日が昇るのがおそく朝8時でもこんなかんじ。

ホール入口にはLaval Virtual Award 8部門のノミネート作品の動画が流れ続けてました。
ホールAの様子はこちら。一日中、マサさんといくちゃんのお姿が。

出展風景

5日間展示のうち、はじめの3日間は一般&プロフェッショナル・デイで、後の2日間(土日)は一般客のみ。このパターンははじめてかも(コロナ禍前は一般デイはラストの土日のみだった)。平日から一般開放もされてるおかげか、週末の鬼混雑が少し緩和されてたような気がします。
出展ブースはこんな感じ。ReVolution #Research 出展はホールCです。

Meta Table βの展示の様子。

OriHimeパイロットさんによるMeta Table βでの接客風景。会話の雰囲気が良いときは、テーブルが華やかになります。

これ、裏ではこんな感じでお客さんの表情を認識(別の人ですが)。OriHimeパイロットさんの操作情報と合わせて雰囲気を計算してます。熟練パイロットさんにインタビューしたところ、 「OriHimeの操作はカンタンでも、接客初心者の新米パイロットさんには接客とのパラレルタスクは大変かも……」というお話があったので、接客の補助輪になればと開発しました。分身ロボットカフェでは、去年お話を聞いた時点で50人以上のパイロットさんが働いているとか。今はもっと増えてそう。

授賞式

授賞式は2日目でした。この授賞式を見てるとLaval Virtual AwardがVR界のオスカーと言われるのがよくわかります。500人会場が満席で大盛りあがり。

公式の授賞式動画はこちら。

Laval Virtualの賞は大別すると3種類あり、コンペとしてVR/XRに関する革新的な取り組みを評価するReVolution賞4部門(#Research、#StartUps、#Experiences、#Students)、アート作品を表彰するRectoVRso賞 、 総合部門賞 としてこの1年間で開発された世界中のVR/XR ソリューションの中から各分野で最も注目すべきプロジェクトが選ばれる Laval Virtual Award8部門(Enterprise & Productivity Solution、Hardware、Developer & Authoring Tools、XR for a Cause、Virtual Worlds & Metaverse、Education & Training、Marketing or Advertising Campaign、Consumer Experience & Entertainment)があります。さらに外部審査委員によるIVRC賞、SIGGRAPH賞があります。

Meta Table βはRevolutionコンペの中でも学術研究的な側面が評価される #Research 部門と、社会問題への取り組みが評価されるLaval Virtual AwardのXR for a Cause部門の2件にファイナリストとしてダブルノミネートされていました。これ、オリラボのスーパードクターエンジニアHanBeiさん @e6ada6e58685 のプロデュースです。さすが。( HanBeiさん をご存知の方はこちらを読もう)

Laval Virtual の表彰式が怖いのは、ノミネートされた時点で表彰式に呼ばれるのですが受賞は発表の瞬間までわからないところです(それが普通?)。昨年も表彰式に声がかかり受賞インタービュー動画までつくっていたのですが、結果は空振りでした。おそらく発表当日まで審査をしてるからだと思うのですが、空振りもわりとよく聞く話です。今年も初日、二日目と朝イチで審査員っぽい方々が展示を回っているのを見かけました。

ドキドキしながら発表を待った結果、
Meta Table β は Laval Virtual Award 2023 XR for a Cause を受賞!
OriHimeパイロットさんらは深夜のため起きることが叶わず(現地時間 で21時頃、日本時間で朝4時頃)、現地メンバーがプロジェクトを代表してトロフィー授与のステージへ。総合部門賞であるLaval Virtual Award には、他の賞は軒並み企業が占めていて、大学&企業での受賞は当プロジェクトのみでした。

受賞情報
 賞名:Laval Virtual Award 2023 (XR for a Cause)
 受賞作品:Meta Table β
 受賞団体:Kanagawa Institute of Technology and OryLab Inc.
研究紹介サイトhttps://scrapbox.io/CommunicationRoboticsLab/Meta_Table_beta
受賞者紹介動画(ダイジェスト版)https://youtu.be/p4OcvBMYn3I
 公式ブログでの受賞者紹介: https://blog.laval-virtual.com/gagnants-laval-virtual-awards-2023/

日本から出展作品紹介

一方、ReVolution賞や他の賞は大学が多く受賞しています。中でも日本からの受賞を紹介、Revolution #Research 部門では岐阜大学 阪井啓紀さん、小木曽直樹さん @sakukuri2019 さんらのMEcholocation が、SIGGRAPH賞は 東京大・名古屋工大 木村正子さん @Ani_9_らのInclusive Quiet Roomが受賞!

日本からの受賞メンバーで記念撮影も。

受賞作品以外も力作ぞろいの日本勢。体験できた作品を紹介。 ReVolution #Research ファイナリスト作品、立命館大学映像学部大島研室井克仁さん @KatsuhitoMuroi らのHaptoMap。手触りで地理が学べる学習コンテンツ。このチーム、作品もさることながら腕っぷしがすごかったです。現地出展の動画で新しいPVをつくるとか……。

多摩大出原ゼミのVRsatilis。すばらしい素材を丁寧な仕事で調理した日本懐石のように繊細なVR作品。現地の体験はこの動画からかなりVer.アップされてたっぽいので、またどこかで体験を……。多分、岡山で… … 。

GREE VR Studio Laboratory/REALITY @VRStudioLab のMetaverse Mode Maker。ことばと動きでファッションショーをつくるユーザー生成&体験コンテンツ。これ生成AI、モーションディフォルメと最新最先端の技術を駆使してるのもすごいんですけど、それ以上にトニカク楽しい。エンタメ性能が振り切れてます。 この歳だから余計に楽しめるのかな……。

出展準備日の合間に楽しんでる風景はこちら。

IVRC2022受賞作品でもある東京大学稲見・門内研の高下修聡さん @shike_cosmicXR らのMechanical Brain Hacking。新しい自分の身体をつくる体験ができるVR。これも準備日のうちに体験させてもらえてよかったです。新しい身体がつながる感じが新鮮で、バリバリ身体を改造したくなる。

交流

Laval Virtualでは交流も盛んで、世界の各国の方々と交流できます。今年も新しい出会いがたくさんありました。中には今回のLaval Virtualがきっかけで現在進行中の話も。

そして、再会も。台湾のPing-Hsuan Han先生らとは2018年以来の再会。日本からもGREEの白井先生、立命館大大島ゼミ 、多摩大出原ゼミあたりは皆勤賞のような方々で、毎年ここに来ると再会できるイメージです。

アカデミックな交流だけでなく、地元の方々との再会も。 Laval Virtual では毎回お世話になっている運営のアンソフィーさんとニコラさん。2019年にボランティアスタッフとして来てくれたキャロリンさんは結婚してご家族で来てくれました。現地で柔道の先生をしているフィリップ先生、ニコラス先生も。 フィリップ先生 は2018年に白井先生に紹介いただいて以来の交流です。

2022年にニコラさんがFrance Bleu(フランスの公共放送)でMeta avatar robot cafeを紹介してくれた放送記事がこちら

こちらは2019年のキャロリンさんの勇姿。メディアも含めフランス対応をすべてこなす我々の守護天使でした。

ニコラス先生 が訪ねてきてくれた際にお宅が宿のご近所だったことがわかり、急遽、夜にお宅訪問。

別日の夜には柔道場の方にもお邪魔しました。フィリップ先生、貴重な交流ありがとうございました!

Laval Virtual の魅力

最後にLaval Virtualの魅力について。 Laval Virtual がVR/XRのイベントとして規模、質ともに世界トップクラスの魅力的なイベントなのは私が説明するまでもありません。なので、ここではあくまで個人的な考えを示しますが、 Laval Virtualの一番の魅力は多くの一般客が家族連れが来場することです。日本では考えられないくらい家族連れが多い。親子連れだけでなく、おじいちゃん、おばあちゃんまで揃ってくるというご家族も珍しくありません。言葉の壁を越えたエンターテイメントシステムやヒューマン・エージェント・インタラクションシステムをつくりたいと考えている研究者にとって、これほど魅力的な場所はなかなかないでしょう。「Laval Virtualは土日(一般客のみにファミリー・デイ)が本番」とは、出原先生がよくおっしゃる言葉ですが、まさにそのとおりだと思います。白井先生も Laval Virtualの魅力の一つとして、家族連れの存在を上げていらっしゃいました。

この魅力がわかる一つの例を紹介します。

はじめはOriHimeを怖がってお父さんの後ろに隠れていたこの子は、手振りが通じた瞬間にOriHimeに対して壁がなくなりました。お父さんの前に出てOriHimeと向かい合うようになり、OriHimeを通した会話を楽しむようになりました。ずいぶんと気に入ったようで、この日、計4回ブースに来場してくれたかと思います。(その上、閉場間際にはお母様が一人でやってきて、なんと「お礼に」とチョコレートを差し入れてくださいました。)

小さな子どもとは言葉だけじゃ通じあえない。身振り、手振りのような非言語表出があって、はじめて通じ合える。
身振り、手振りが未知のものに近寄れない子どもの心の壁を取り払う。吉藤オリィさんがつくったOriHime の強みの一端が、わかりやすく示された実例といえます。同じような子が何人かいましたが、皆、かなり小さなお子さんでした。このようなことは実験室では見えにくいのですが、一般の出展のような場では一目瞭然になります。言葉が異なる海外出展となると、さらに新しい発見に出会えることもあります。

コミュニケーションロボティクス研究室では、常に「地球の裏側の子どもでも笑顔になる非言語表出」の技術開発に取り組んでいます。この目標を達成するためにも、来年もLaval Virtualを目指すことでしょう。

さいごに、本プロジェクトに参加ご協力いただきましたOriHimeパイロットをはじめオリィ研究所、大学、Laval Virtualほか関係の皆様に厚くお礼申し上げます。

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